いつからかカーテン越しに月を見てから寝ることが習慣になって、
うっすら一本の線で描かれたような三日月にもならないような薄い月が光輝いて、
毎度そこにあるというだけでひどく安心できた気がして、
一日の終わりにする儀式のようになったのはいつからだったろう。
日中白く存在していたあなたはカーテン越しでさえ、神聖な存在のようにわたしの目に映った。
カタールの砂漠で いつのまにか空が濃くなって いつかラピスラズリの色は砂漠の夜の色だなんて聞いたことを思い出した。 そうなる前のピンクみたいな紫みたいな空のどこか懐かしい色に、 もう少しでまあるくなる月が浮かんでいた。
月を見ると思い出す人はいますか。
まるでドライブデートのような、年末のこの時期に誰もいない砂漠をドーハの街中からひたすら走った。 ガスや石油の工場の側を、現実の中をひたすら走り、砂漠の入り口に着くと観光用のラクダに乗りかえた。憧れだったラクダと自分の影が砂漠にうつる。四駆が走ったあとがうっすらついた人工的な景色に少し残念な気持ちを抱きながら、それでも静かな砂漠と数少ない人だけのこの場所はやはりわたしにとっては異国そのものだった。
もっと喋って。
もっと楽しくしようよ。
まるでわたしが楽しんでいないかのようにドライバーにそう言われると少しばかり悲しくなった。
夕方近い少し暗くなりかけた空を見ながらのドライブ。つたない英語で自分なりに話してみるも、男女そろうと恋愛の話になるのは国が違えど同じなのだろうか。
彼氏はいるの?
なぜか砂漠でそんな話になり、目の前を見るので必死だったわたしはちゃんとした返事もしないまま彼の声もその雰囲気にかき消されてしまった。
海が見えるだなんて聞いていなかった。 対岸がサウジアラビアだなんて頭の中で地図を描いてもうまく出てこない。
ニュースでたびたび聞く話がウソのように感じる。
こんなに近いのに…?
夢みたいな空と海の色に政治的な話は似合わなくて、考えようとする頭は一旦休ませて心を充実させることにした。
まだ日が落ちていない空に月がはっきりと浮かんでいる。 この国でこの月はなんと呼ぶんだろう。 しんとした静さの中でそんな疑問がふっと湧いてはすぐに消えていった。