都会よりも自然が好きだと思ったのはいつだろう。
たいがいのことは覚えているのに、どうしてだかこれだけは思い出せない。 けれど新卒1年目の会社にいた時、毎日通っていた本屋さんで見つけた世界一周の本をきっかけにバックパッカーへの憧れが募っていったのは間違いがない。 いつからかそんなたくさんの国々の写真を見る中で、意識しなくとも好きになったのが自然だったのだろう。
ベトナムは前々から行って見たかった土地だ。 フランスの名残りが残る場所、世界遺産のハロン湾に美しいビーチ。 けれどわたしが前々から気になっていたのは砂漠だった。
白い砂漠がベトナムにあるらしい。
初めて知ったときは感動した。 あんな小さい国に広大な砂漠が広がっているところを想像すると、それだけでわくわくしたものだ。
けれど今回ムイネーのホテルに着き、まずびっくりしたのはわたしが行こうとしたのは砂漠ではなく砂丘だったことだ。
もともと滞在したホテルにツアーがあることはわかっていた。バス代と同じくだいたい500円くらいでいけるこのツアーは案内役はおらず、ドライバーさんが観光地を巡ってくれる。一人旅のときの交通費は意外と馬鹿にならないので、行きたい目的地が含まれていたこのツアーを真っ先に選んだ。 しかし、案内してもらったときに砂漠という文字がないことに気が付いた。 なんとなく気になりながら部屋の案内をもう一度見てみると、やはり砂丘と書いているではないか!!
よく考えればわたしがいたこの時期の南ベトナムは雨季。 雨季の砂漠なんて聞いたことがない!! 砂漠って乾燥しているんじゃなかったっけ… 少し考えればわかるようなことを着くまで感違いしていたなんて… 下調べを念入りにしていなかったとは言え、さすがにびっくりしてしまった。
ところでこんな間違いをしてしまったのは単純な話で初めて知ったネットの情報では砂漠と書かれていたからだ。鵜のみにしたわたしもわたしだが、それを書いた人は今でも砂漠と思っているのか、それともわたしのように気づくタイミングがあったのか… もし話す機会があるなら話したいくらいだ。
ところで、そんなことはあったものの、この白い砂丘はとても素晴らしかった。 一日目のサンライズツアーでは残念ながらあいにくの天気。朝日は見えなかったが、やはり自然がつくったものは美しい。この日はバギーに乗って走り周ったおかげで砂丘を思いっきり楽しむことができた。
翌日、なんとなくサンライズを見れなったことを悔しく思ったわたしは、もう一度ツアーに参加することにした。どうしてもこの白い砂丘にももう一度行って見たかった。二度目の参加なので今回は追加料金を払わず徒歩で砂丘を歩くことにした。
一緒に参加していた人と裸足で歩く。この日は晴天。昨日の空が嘘みたいに雲一つない青空だった。日光が輝き、ところどころ暑い砂がわたしの足裏を刺激した。 はじめは一緒に歩いていた人達とはどんどん距離が離れていく。追いかけようにももう無理なほど、砂の上を歩くのはしんどかった。
前日砂丘をバギーで登り上から見渡したときには、やはりここは砂漠ではなく砂丘だと感じた。それは単純にその規模が小さく感じたからだ。けれど実際に自分の足で歩いてみると、この砂丘はとても広く、登るにはかなり大きく感じた。そして一面真っ白な砂というのは方向感覚もだんだんおかしくなる。目印に何かを捉えておかないと、あっという間に目的地も出発地点も見失ってしまいそうだった。
まだ誰も歩いていない場所を探して見つけてみても、その場所へ行くのすら遠く感じる。どこもかもバギーと誰かの足跡がついていて少し残念に思いながらも、逆にこれがなければどんどんおかしな方向に進んでしまうような気もした。砂の上を、炎天下を、ひたすらひたすら歩くのは想像以上にハードで、前も後ろも右も左も常に確認しないと自分がどこにいるのかわからなくなる気がした。
それでもなんとか昨日行った場所とは違う、向かい側にある丘を目指す。 なんとか上がり切れそうなところで、とても急な斜面になっていることに気づく。 正直ここまで来て諦めそうになるほど頂上付近に来たときは疲れ切っていた。そして遠くから見るとそこまで急ではない傾斜もほとんど直角のようなうに見え、余計にひるんでしまった。
それでも、なんとか登りきると、素晴らしい景色が見えた。やはりてっぺんにくると感慨深いものがあった。
どんな場所でもそうだが、そこに着かないと見えない景色がある。 歩くのがあんなにしんどいなんてわからないのと同じように、実際に登ってみないとこの景色の素晴らしさにはなかなか気づかない。 そしてそう見えている景色もその時自分がどれだけ時間をかけてきたか、着実に一歩一歩踏みしめてきたらこそわかるのだと思った。
幸い人がいたのでなんとか写真を撮ってもらったものの、もう時間がなくすぐに折り返すことになった。 またあの距離を歩くのか…と思うと少しくじけそうになったけれど、くだりながら見る世界は行きとはまた違って見え、こうして来たからこそ見えたこの世界がいとおしく感じた。
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