いつからだろう。
あてのない旅をしたいと思っていた。
いつかいつか。
そんな日はいくら待っても来ない。 これは旅だけでなく何にでも当てはまる。 気持ちだけでは成就しない、そういう風になっている。
ゴールデンウィークのとある日。 窓の外には青空が広がっていた。
今日はまさに、あてのない旅日和だ。
すぐに行くことを決意し電車に乗った。
一人だから約束事なんていらないけれど、それっぽくしたくて決めておく。
行きは必ず電車。 今日は日帰りで宿泊はなし。 行先は検索しない。 自分の感覚を頼りにする。 トラブル時以外は人に聞かない。 帰りは電車以外もオッケー。 帰りは最短で帰れる手段を検索してもよし。
なんとなく出来上がった七ヶ条を頭に入れて、いざ出発した。
高田行き。奈良行き。加茂行き。
乗り換えるたびに心細くなったが、このあたりまではなんとなく地名で場所の見当がついた。 ところが自分の予想しないかったことがおきた。
不安。
不安で仕方がない。
ゴールがない。 どこに着くかわからない。
言葉は通じるし、お金だって持っている。場所はわからないが、周りには人もいる。
なんなら初めに決めた条件だって変えたっていい。
いくらでもどうにでもなりそうなのに あてがなく、何も決まっていないということがこんなにも不安なのだと知った。
加茂に着き二両編成の小さな電車に乗る。 木津行きだ。
帰省客か2両しかない電車の車内は人でいっぱいだった。 突然視界が開けると、そこにはただただ田んぼと畑が広がる緑いっぱいの場所だった。
ときおり車窓からはこいのぼりがみえた。 子供たちが電車の進む方向に向かってまっすぐに見つめている。
電車は思ったよりも速度をあげどんどん進む。駅の間隔がこんなに長いなんて知らなかった。
ふと、とある駅でドアが開くと明るい空気が流れた。
桜だ。
不安におしつぶされそうな中、
あたたかな温もりが見えた気がした。