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執筆者の写真Ayako

あてのない旅 前編


いつからだろう。

あてのない旅をしたいと思っていた。

いつかいつか。

そんな日はいくら待っても来ない。 これは旅だけでなく何にでも当てはまる。 気持ちだけでは成就しない、そういう風になっている。

ゴールデンウィークのとある日。 窓の外には青空が広がっていた。

今日はまさに、あてのない旅日和だ。

すぐに行くことを決意し電車に乗った。

一人だから約束事なんていらないけれど、それっぽくしたくて決めておく。

行きは必ず電車。 今日は日帰りで宿泊はなし。 行先は検索しない。 自分の感覚を頼りにする。 トラブル時以外は人に聞かない。 帰りは電車以外もオッケー。 帰りは最短で帰れる手段を検索してもよし。

なんとなく出来上がった七ヶ条を頭に入れて、いざ出発した。

高田行き。奈良行き。加茂行き。

乗り換えるたびに心細くなったが、このあたりまではなんとなく地名で場所の見当がついた。 ところが自分の予想しないかったことがおきた。

不安。

不安で仕方がない。


ゴールがない。 どこに着くかわからない。

言葉は通じるし、お金だって持っている。場所はわからないが、周りには人もいる。

なんなら初めに決めた条件だって変えたっていい。

いくらでもどうにでもなりそうなのに あてがなく、何も決まっていないということがこんなにも不安なのだと知った。

加茂に着き二両編成の小さな電車に乗る。 木津行きだ。

帰省客か2両しかない電車の車内は人でいっぱいだった。 突然視界が開けると、そこにはただただ田んぼと畑が広がる緑いっぱいの場所だった。




ときおり車窓からはこいのぼりがみえた。 子供たちが電車の進む方向に向かってまっすぐに見つめている。

電車は思ったよりも速度をあげどんどん進む。駅の間隔がこんなに長いなんて知らなかった。

ふと、とある駅でドアが開くと明るい空気が流れた。

桜だ。


不安におしつぶされそうな中、

あたたかな温もりが見えた気がした。


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