“こんなに美しい海は今までに見たことがない。マルタにこんな場所があるなんて…”
そう絶叫したのはコミノ島へ向かう船の中だった。
少しあれば十分。 それは完全に間違っていた。
ゴゾ島から船にのること10分ほどだろうか。
コミノ島に向かってどんどん海の色が変わってきた。
海は繋がっているのに、少しのことでこれほどまでに違うなんて、一体誰が想像するだろう。 船が宙に浮いてるように見えるほど水は透き通り、美しい色をしている。
エメラルドグリーンやブルーのキラキラした波がわたしたちを迎えてくれた。
コミノ島はバカンスを楽しむ人達で溢れていた。
小さな島なのに絶えることなく人が訪れている。
海とビーチは人で溢れかえっていたので、母と二人、見つけた崖を登ってみると、少し登っただけなのにわたしたちだけになった。
昔からなぜか崖や絶壁に憧れがある。実際に登るとその高さに驚くけれど、その危うさみたいなものに惹かれるのかもしれない。
少し目線を落とせば、海で遊ぶ人たちの笑顔で溢れた世界があるのに、自分たちが立っているこの場所は別世界にいるような、そんな感覚になった。
楽園という言葉はもっと楽しいイメージがあるかもしれないが、ある意味ここはそう呼ぶにふさわしいかもしれない。そんな幻想を持つほどとっても不思議な空間だった。
空の青さも雲がない分引き立っていて、何もかもが美しかった。 ごつごつした岩にはお花や草が生えており、いつもこういう景色を見ると自然の生命力にはかなわないと思う。
上陸したときは海がキレイなほんの小さな島だと思ったのに、一周しようにも全然時間が足りないほど広々としていた。
太陽が当たってキラキラした船も、遠くに見えるパラシュートも。 すべてが楽しい夏を象徴している空間とは別の場所に身をおくことで、より一層この島の豊かさを感じられた気がした。
最後に海に足をつけ、マルタ島に帰ることにする。こんなにキレイな海に足をつけないで帰るのはなんだかもったいない気がして。 西日に照らされた水面を見ながら、次は水着を持ってまた必ず来ようと心の中でつぶやいた。
マルタ島の岸には無事着いたものの、帰り道はなかなかバスに乗れなかった。けれど、それも今となれば良い思い出。
真っ暗になったバレッタを歩きながら、旅はやっぱり計画通りに進まないものだね、と とても心地よい疲れにその日1日の充実感を感じたのだった。