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執筆者の写真Ayako

曖昧な記憶をたどって


新千歳空港から約4時間。オンネトー※1に着いたときにはすでに心が癒されていた。

旅の効用は計り知れない。 わたしにとって国内で一番と言っても過言ではないほど大好きな道東。千歳から道東道をひたすら走るには集中力が必要だけれど、走っているうちに木々の美しさや空の青さ、大阪ではあまり見ない広い空間にどんどん体が癒されていった。足寄で降りるころにはすっかりこの空気に癒され、やっぱり思い切って来てよかったと思った。



久しぶりに道東に行きたい。 やっとそんな気持ちになったのは五月の初めだった。なんとなく住むのをやめてから行く気持ちにならなかった場所。けれど貯めている全日空のマイルはもうすぐ有効期限が切れるし、それなら大好きな北海道へ行きたいと思った。

あまりにも突然思い立ったから(とは言えいつものことと言われればいつものことだが)、飛行機は新千歳、関空間だけ取った。札幌周辺やニセコも考えたけれどやっぱりしっくりこない。北海道生活※2 を読んでいても、目に留まるのは道東ばかり。何度も行っているのにこんなに惹かれるのはどうしてだろう。けれど惹かれるものというのは理由を簡単に言えるほど浅い気持ちではないのだと思う。無意識に目がいってしまう、そんな自分の深い心理まで近づいているから自分でもうまく言えないのかもしれない。

結局一番に目が留まったなぎさのドライブウェイにどうしても行きたくなり、釧路に泊まることにした。帰りは女満別→新千歳空港行きの便に空席があり、飛行機の席をおさえることができた。 時間もばっちり、ちょうど二泊三日をまるまる満喫できるプラン。いきなり決めたわりにラッキーだな…そんな風に思いながら旅はスタートした。

北大西洋シーサイドラインを走り、なぎさのドライブウェイへ行く。今回の一番の目的はこれ。そして二つ目の目的はたくさん運転すること。

度々書いているが旅の途中、移動している車内から見える景色は毎度印象に残る。 ドライブレコーダーなんかを付けて、自分が走った景色をすべて記録に残したい。そんな気持ちにさえなったことがある。それくらい北海道をドライブすることが好きだ。

北大西洋シーサイドラインは以前も行ったことがある道。あの道は走っていて本当に気持ちがよかった。思い出すだけですでに爽快な気分になった。

一日目、釧路駅周辺に泊まることにしたわたしは初日にオンネトーへ行くことにした。エメラルドグリーンの水がとてもきれいな場所。はじめて行った時のあの感動は今でも忘れられない。バーべーキューなどができる施設の横を抜けていくと、そこはオンネトーへ近づける場所のはずだ。クマが出る場所だから注意は必要だけれど、とても美しい景色に魅了されたはじめての日のことを思い出した。

けれど記憶とは本当に曖昧なものだ。あれほど鮮明に覚えている場所にたどり着けなかったのだ。いわゆる「オンネトー」と書かれた看板がある、観光客が写真を撮る場所までは行けた。けれどここは目的の場所ではない。足早にあとにし、あとは前回行った場所へ…と、覚えている記憶を片っ端からたどったが見つからない。近くにあった地図を見てもどこかわからない。山の奥まで行くのが正解かと思い行ってみたが、むしろオンネトーからは外れてしまい全然違う場所だった。

結局、その後もいろいろと探してみたが以前感動した場所がどこだったのかはわからなかった。一本しか道はないはずなのに、どうしてわからなかったのだろう。

よく、記憶というのは自分の都合のいいようにできていると言うが、わたしもそうだったのだろうか。

なんとなく気になりながらもこれ以上探してもきっと今回は見つからないだろう。そしてあの美しい記憶はそのままのほうがわたしにとってもいいのかもしれないと思った。

もといた場所の近くまで行くと、ちょうど先ほどまで曇り空だった空が晴れてきた。水は濃い緑のような青のような絶妙な色をしていた。青い空と白い雲が湖面に映し出される。

今回はこの景色が見れたから、これでよかったのかもなあ。






前回の思い出の美しさは残したまま、今回の記憶がまた重なっていく。数年後に来る頃にはもしかしたらまた違った記憶として残っているかもしれない。

はっきりとした事実とは違っても、それはそれで面白いじゃない。

曖昧なものほど美しいものはないのかもしれない。

なんだかそんな風に思った旅の始まりだった。

※1 オンネトー

北海道の東部、阿寒国立公園内にある湖。見る場所や角度などにより水の色が変わるとても美しい場所。

※2 北海道生活

えんれいしゃから年6回発行されている北海道を情報が載った雑誌。

わたしが読んだのはvol.64 。巻頭特集「道」がとても印象的だった。なぎさのドライブウェイもこの雑誌を見て知った。


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