“どこで地図をもらったの??” 観光客と思われる女性に声をかけられたのはブエノス・アイレス滞在2日目だった。珍しく市内をまわるバスに乗ることにしたわたしはブエノス・アイレスバスの始発地点にいた。都会というのは便利だけれどせわしなく、こうして人と話してもその場で終わってしまうことが多い。実際普通のホテルに泊まっていても話すのはホテルマンくらいだった。
南米もあと残すところ三日になったころ、やっとウルグアイに行くことができた。イースターの影響で本来行きたかった日程では行けず、滞在ぎりぎりになってしまったが、世界遺産である街並みを一目でよいから見てみたかった。フェリー乗り場まで歩いていこうとホテルを出ると外は雨。南米一ヶ月の間一度も使わなかった傘を取りに部屋へ戻った。テレビも何も見ていなかったから雨だんて知らなった。ホテルの人に聞くと天気予報も雨だと言うので仕方なく取りに帰ったのだ。
ウルグアイに近づくにつれ厚い雲はどんどん薄くなり結局その日は傘を使わずに過ごした。昔の街並みが残るコロニア・デル・サクラメントはなんとなくこの雰囲気が似合う気がした。晴れ間も似合うだろうが、少し湿り気が残ったこの感じが不思議とこの日の気分に合っていた。
人とのご縁は面白いと思ったのはウルグアイに到着してすぐだった。あの、ブエノス・アイレスで声をかけられた女性が目の前を歩いていたのだ。
あんな広い街で出会った人と、たまたま同じ日にウルグアイに来るなんて。
縁というのは本当に不思議である。 結局一緒に周ろうと言う彼女の提案でこの町を一緒に周ることになった。
アルゼンチンでおなじみになった、マテ茶をシェアする習慣が好きだという彼女はレストランの方に頼み水筒にお湯を入れてもらった。そのまま海沿いのベンチに座り、二人でマテ茶を飲む。一つのコップで男女関係なく回し飲みする習慣は初めは不思議に思ったが、明るく仲の良い情熱的なラテンアメリカの人達を見ていると、そんな光景はむしろ当然に思えた。 見慣れないものがたったの数週間で当たり前の光景に変わる不思議を体感したような気がした。
街中には美しい緑がたくさんあり、赤、黄、白の昔を思い起こさせる車がたくさん並んでいた。昔の面影がそのまま残っている美しい街並みはとても印象に残ったが、メキシコ人の彼女と一緒に周ったおかげで、たった半日の観光がより思い出深くなった。
現地の方にオススメのお店を聞き二人で入った。メインのお肉はアルゼンチンでもお馴染みのアサードだ。丸焼きにしたお肉に、チョリソ(ソーセージ)やチンチュリン(小腸)などが並んでいる。専用のコックがバリージャ(網)の上で焼いており、好きなだけ食べることができる。サラダはブッフェ形式で並んでおり、パンとドリンク、そしてデザートが付くというこの旅一番の贅沢な食事だった。
目の前で焼かれているお肉はどれもとても大きい。好きな形に切って分けてくれると言う。順番にお肉の種類と部位を説明してくれたが、いまいちよくわからず、全部くださいと言ってしまった。あとから見てみると、結果的に殆どの人がそうしていたわけだが、それほどここの国の人たちはお肉が好きなのだろう。
メキシコ人と話すのはこれが初めてだった。彼女とは初対面なわりにたくさん話したと思う。 “メキシコは貧富の差がすごい。アルゼンチンもそうだけど、その比ではないよ。” 彼女がそう言った時、アルゼンチンで見かけた貧困街が思い浮かんだ。2度しか見ていないが、わたしの目にはとても差があるようにうつった。それよりも差が大きいと言うことだろうか。どう返事をしていいかわからず、またうなづくだけになってしまった。
一人で旅をするようになってから、世界は繋がっているのだと実感することが増えた。旅先を決めるとき、どのルートで行くか考える。航空券代を調べている時、近い国なのに飛行機が飛んでいないことに気が付く。どうしてだろうと思っていると、国交が結ばれていない国だったりする。
日本からだと当たり前に行ける国でさえ、行けない人もいる。実際、ビザの問題で行けなかったという話はよく聞くことだ。
“世界は繋がっている。” そんな台詞を言うと、とても大それたことに聞こえることもあれば、とても陳腐な気持ちになってしまうこともあるのはわたしだけだろうか。 世界の出来事がニュースになるのはほんの数分程度だ。たまに、これを流す意味はあるのかと思うようなことを、長々ニュースで流しているのを見ると、もっと他に大切にしなきゃいけないことがあるのではないかと思ってしまう。
メキシコ人の彼女とは仲良くなり、喋りすぎて、帰りのフェリーはあやうく乗り遅れるところだった。 特別なひと時を過ごさせてくれてありがとう。 いつかメキシコにも行きたいなとあらためて感じた時間だった。人との縁がその国をより身近感じるきっかけになる。世界中の人と仲良くなれたらいいのにと、ありきたりだけど願わずにはいられない。