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執筆者の写真Ayako

電車の車窓から


北海道を旅するときの楽しみは運転することだ。普段は滅多に乗らない車に乗りたくなるのは、美しい景色の中をひたすら走りたいという気持ちが強いからだろう。レンタカーを借り、海岸沿いや山間の道を走る。特別なことは何もしていないのにあっという間に一日が過ぎる。けれどその間に見た景色はなかなか頭から離れない。むしろ少し思い浮かべるだけでその時の匂いや音、空の色や空間の広がりまで思い出せるのだから不思議でならない。

南米ではさまざまな交通手段を使ったが、ほとんどの移動は日中だった。もともと治安を気にして暗い時間に移動はしないと決めたからだが、帰国後ふと思ったことがある。バスや列車、飛行機から見た景色がこんなにも懐かしく、そして大切な思い出として残っているのは自分の目にその景色が焼き付いているからだと。



南米最後の滞在地ブエノス・アイレスでは郊外のティグレを訪れた。ブエノス・アイレス州に位置するティグレは市内のレティーロ駅から片道1ドル弱、約1時間で行くことができる。それまでさまざまな景色を車窓から眺めたが、最後の土地だからかそれまで他国で見たいろんな風景が思い出された。

レティーロ駅を出発するとすぐに貧困街が見える。空港から市内へ出た初日の車中から見た景色とよく似ていた。戸惑った気持ちのまま通りすぎると、オシャレな格好でランニングを楽しむ人達が見えた。何度見てもこの光景の差には複雑な気持ちになる。目に見える全てのものがここブエノス・アイレスの日常なのだろうが、その差の大きさにわずか一週間ほどしか滞在していないわたしでさえ、どう言葉にすればよいのかわからなかった。

ペルー、ボリビア、チリ、アルゼンチン。車窓から見た景色が次々に思い出される。日中に移動したからこそ見えた景色たち。旅をするたびに観光地に行く回数が減ってきたこと。 特別なお金を払わなくてもただ町中を歩くことが楽しいということ。そして車内から見える景色が案外その国の日常や姿を現していること。そんな何気ない暮らしぶりを眺めることが一番感覚的に自分の中に残っていくということ。こうして今一ヶ月の中で思い出されるのは案外ただただ長くてしんどいのではと恐れていた長距離バスや列車からの景色だった。


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