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執筆者の写真Ayako

親切なカップルとサリーナス・グランデス 前編


サリーナス・グランデスへ行くツアーはなかなか人が集まらなかった。町中を一通り歩きまわったが、それでも時間が十分にあると感じたので、チリ行きのバスチケットを買いに行った。地図を書いてもらったおかげでその場所はすぐに見つかったが、中は普通の服屋さんだし、バスのチケットが売っているなんてどこにも書いていないので、一人で探しているままだったら永遠に見つからなかっただろうと思った。

そのお店に入ると、若い、おそらくはまだ高校生くらいの女の子が店番をしていた。彼女にサンペドロ・デ・アタカマ行きのバスのチケットが欲しいと話すとすぐに話が通じた。英語は話せないみたいだが、少しはわかるようで、これまでに何度も見せたスペイン語の紙も役に立ったようだ。しかし、この時またしてもドルで払うことができなかった。しかも、この時はまだ早朝だったので、銀行やATMがあればすぐにペソは手に入ると思ったが、この辺りには一切ないという。昨晩ドルで宿代が支払えなかったときは、何かあったときのためにペソを残しておきたいからできればドルを使いたい、この時間にATMへは行きたくないからドルで払わせてほしい、そんな気持ちだったが、今回は全く足らない上に、銀行もないならどうすればいいのだろう。サリーナス・グランデスへ行くツアーもペソで払わなければならない。その分を差し引くと全然足りなかった。クレジットカードも使えない。お金が足りない。どうしよう。どうしよう。どうしよう。頭の中はそれしか浮かばなかった。 店番をしていた女の子はとても親切そうな優しい雰囲気の持ち主だったので何度も交渉してみたが一向にダメだった。かなりしつこくしていたところ、おばあさんが入ってきた。またしても、どうしてスペイン語を話せないの?というような素振りで申し訳なかったが、そう言われてもなかなか話せないので、女の子が通訳をしてくれていると、ふといきなり電話をかけ出した。すると、突然ケータイの下の方をふさぎながら、“17時にまたここへ来て。そしたらバス代をドルで支払えるよ!”

17時にまたここへ来る?? 正直、その話を聞いても全くピンとこなかった。17時にオッケーになるなら、今も大丈夫なのでは?それとも何か怪しい商売なの??頭の中はハテナでいっぱいだったが、おばあさんはこれで解決とばかりに嬉しそうだった。

心配ではあったが、これ以外の選択はなかった。何度も何度も紙に書いては本当に17時に来たら買えるんだよね?と確認し、その場をあとにした。

大丈夫、大丈夫、大丈夫。おばあさんのおかげで買えることになったわけだし…

何度も何度も自分に言い聞かせてみたけれど、不安で仕方がない。もしここで買えなかったら、サルタまで行くとそこからならチリへ向かえるだろう。でも、そのサルタまでもお金が足りなかったら?

お金を持っていないわけではないのに、こんな事態になるなんて。正直どうしようもない状況に不安でしかなかったが、17時になるまでその気持ちは一旦封じ込めておくことにした。




再びサリーナス・グランデスのツアーが出る場所まで行くと何やら様子がおかしかった。どうやら話を聞くと、カップルが二組現れたらしく、わたしは参加できないと言うのだ。

もしもどうしても参加したいのなら二人分を払わなければいけない、それなら今回のツアーに参加できるよ!!と言うではないか。 もう一つの心配事ががなんとか解決しかけているところへ、一番楽しみにしていたサリーナス・グランデスへ行けない可能性も出てきた。現時点でツアー代を倍払うなんてかなりリスキーな話だったし、前途の通り、ペソしか使えないこの状況で二人分払えるはずがなかった。

朝から起きて、歩きまわって、探し回ってやっと見つけられたというのに。 すでに一時間以上は歩きまわっていたし、行けることが決まったものだと思っていた私はひどく落胆してしまった。正直、普段こんなことがあっても、次の回にしたら大丈夫やんと気楽にいられたと思うが、前日から色んな心配が重なっていたせいでかなり気持ちが下降していた。そもそも二泊三日で来たことも、ペソを十分に持っていないことも全ては自分が悪いのだけれど、誰かのせいにしたくなるほど、そしてサリーナス・グランデスに行くためにここへ来たのに、行けなかったらこんなところへ来なきゃよかった、そんな風に思うほどかなり疲れていた。 そんなとき、行くことが決まっていたカップルの男性が私に近づいてきた。彼はごめんね、と言いながらツアーのガイドに何やらしゃべり始めた。彼は英語が少し話せるようで私に向かって、

“今回は行けないけれど、次出発するツアーでは必ず乗せてあげてと僕からもお願いしたから、きっと行けるよ。心配だろうけど大丈夫!Good Luck!” まさか、さっき会ったばかりの人がそんな親切にしてくれるなんて思わずびっくりした。その前からも、ちらほらわたしのほうを向いては気にかけてくれているようなそんな風に見えたが、わたしの勘違いではなく、本当にそう思ってくれていたようだ。サングラスの下では悲しくて正直泣きそうになっていたが、この時ばかりは優しさに感動してしまい泣いてしまった。そんな彼のやさしさに触れ、やっと気持ちも落ち着きはじめた。それでもまだ申し訳なさそうな顔をしながらも彼は車に乗り込み、そのカップルはサリーナス・グランデスへ向かっていった。さっきまでは一番に申し込んだのは私なのに…という気持ちでいっぱいだったが、この時は気持ち良く見送っている自分がいた。



この後、残っていたガイドの方も“次は(5人乗りの)車じゃなくてコレクティーボで行くから行くことができるよ。もう少し参加者を集めたいから11時まで待ってね。”と声をかけてくれた。とにもかくにも交渉の術を持ち合わせていなかった私はあの男性に救ってもらい、やっと一安心することができた。

11時半頃、ガイドさんに誘導され無事にコレクティーボに乗り込むと、念願のサリーナスグランデスへ出発した。


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