写真家であり作家でもある星野道夫さん。
書かれている本も撮られている写真も大好きなのに、
いつ知ったのか?初めて読んだのはどの本だったのか?
不思議なことにすっかり忘れてしまった。
数年前に誕生日が同じだと知った。
本の帯には亡くなった年が書かれているから、誕生日なんて意識したことがなかったけれど、常々共通点が多いと思っていたからより親近感が増し、さらに大好きになった。
沢木耕太郎「深夜特急」に憧れたこともあるし、さまざまな旅の本を読んでは面白いと感じた本もたくさんあった。けれどわたしが一番大きな影響を受けているのは間違いなく星野道夫さん。星野さんの綴る優しい言葉にどれだけ救われたかわからないほどだ。
大好きな言葉はたくさんあるけれど、よく思い出すのはこの言葉たち。
“…アカリスの鳴き声があちこちから聞こえてくる。
森も少しずつ動き出した。小さな焚火が揺れている。
パチパチパチパチ、僕の気持ちをほぐしてくれる。
熱いコーヒーをすすれば、もう何もいらない。
やっぱりおかしいね、人間の気持ちって。
どうしようもなく些細な日常に左右されてゆくけど、
新しい山靴や春の気配で、こんなにも豊かになれるのだから。
人の心は深く、そして不思議なほど浅い。
きっと、その浅さで、人は生きてゆける。
夜になり、星が出た。ランタンに火をともし、日記をつける。
今年もまた始まった。”
--- 早春『Alaska 風のような物語』星野道夫 小学館文庫より引用
“…「これだけの星が毎晩東京で見られたらすごいだろうなあ…
夜遅く、仕事に疲れた会社帰り、ふと見上げると、手が届きそうなところに宇宙がある。
一日の終わりに、どんな奴だって何かを考えるだろうな。」
「いつか、ある人にこんなことを聞かれたことがあるんだ。
たとえば、こんな星空や泣けてくるような夕陽を一人で見ていたとするだろ。
もし愛する人がいたら、その美しさやその時の気持ちをどんなふうに伝えるかって?」
「写真を撮るか、もし絵がうまかったらキャンバスに描いて見せるか、
いややっぱり言葉で伝えたらいいのかな。」
「その人はこう言ったんだ。自分が変わってゆくことだって……
その夕陽を見て、感動して、自分が変わってゆくことだと思うって。」”
--- 『旅をする木』星野道夫 文春文庫より引用
今までたくさんの言葉に助けられてきた。
有名人の名言になるほどと思ったり、自己啓発本の言葉にやる気をもらったり。
けれど星野さんの綴る物語はいつも周りの情景が思い浮かんで、言葉だけが先行するわけではなく、いつもどっしりとわたしの中に入ってきた。
だから何かに迷ったときや元気がほしいときは度々星野さんの本を開いている。
本でも映画でも大切な人から言われた言葉でもなんでもいい。
自分にとって思い出したら元気になったり、
泣いてしまうような素敵な言葉を持っていたら、ふとした瞬間に心が軽くなることってあると思う。
星野さんの言葉たちは、わたしにとってそんなとっても大切な言葉なんだ。