さっきまで晴れていたのにいつの間にやら曇ってきた。
曇ってきたというよりは濃霧の中にいるようだ。
思えばこの時期の釧路は霧が多く、昨日のフライト到着時も濃霧注意報が発令されていた。
こんな濃霧のタイミングで、わざわざ行かなくてもいいのかもしれないが、
どうしても海が見たくて車を走らせた。
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しばらくくつろいだカフェの周辺は晴れていて、そのまま休憩していても十分に気持ちのいい日だった。
もしかしたらこのままここにいたほうが居心地よく過ごせるかもしれないとも思った。けれど人はもし自分の選択が間違っていたとしてもどうしても進みたい方向へ行きたいときがある。
それは我慢が足りないという場合もあるし、
結果として見切り発車してよかったと言う場合もあるし、
なんとなくの勘が当たってよかったね、運が良かった!
なんて言葉で説明されたりもする。
そうして、人の選択というのは、あとから物事を見て意味づけをされていくのだろうけど、最近はどんな選択をしても、結局自分が一番行きたい方向に行けるのではないかと思ってきた。
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川湯にあるカフェを出発して約2時間だったと思う。
原生花園あやめヶ原に着くと遠くの海は見えるものの霧が薄く漂っていた。
この霧を単に暗いと言ってもいいのだけれど、どうしてもそういう言葉では終わらせたくなくて、幻想的というかあやしい雰囲気というか。
そんな言葉に置き換えたくなってしまった。
馬を開放しているという文字を何度が見かけたが結局一頭もいなかった。
代わりにいたのはエゾシカでカメラを構えるたびにこちらを振り返りなんとも愛らしい表情を見せてくれた。
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道の横にはどこもかしこもアヤメが咲いている。暗い背景に紫色がはっきりと浮かんでいる。水滴がついた草たちもなんとも表現しがたい魅力があった。
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暗さのある霧のかかったこの景色をどうやったらうまくカメラにおさめられるだろう。
毎度、道東で同じような景色に出合うたびに思うことだ。未だ答えは出ていないけれど、きっとうまく撮ろうとするのではなく、自分が撮りたいものをただ撮れば本当はそれでいいのだろう。
いつの間にか誰もいなくなり、自分ひとりになっていた。
海が見える岬の先に、立っているのはわたし一人。
孤独というのはこういう感じなのかなと思ったと同時に、自分は本当の意味で孤独にはなれないということも知っている。
帰り道、行きに迎えてくれた鹿がいないかと探してみたけれど、そこにはもう誰もいなかった。
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人の心象と目の前にある景色は似ているのかもしれない。
必死で美しい何かを求めてきたこの場所は、ただ草が生い茂りアヤメが群生していた。
霧が晴れる気配もなく、この場所を去るのはすっきりしなかったけど、車の中にそれは持ち越して、今はまた晴れた場所へ戻ってみようと思った。
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